重慶市政府への建議内容

西部地域(重慶市、四川省、陝西省)

1.重慶市

省市別で中国最大の人口を有する直轄市・重慶市は、成都市と並んで中国西南地区の中核都市として内陸部の経済を牽引している。特に日系企業にとっては、古くから自動車・二輪車や電子機器を始めとした製造業の一大拠点としての地位を有している。新型コロナウイルス感染拡大で落ち込んだ重慶市の経済も2021年には既に回復を遂げ、安定成長の軌道に戻った形だ。
2020年1月に国家プロジェクトとして批准された「成都-重慶地区両都市経済圏」(中国語では成渝地区双城経済圏)建設計画に則り、成都市と重慶市を結ぶ地域の開発が急速に進められている。中国第4の広域経済圏として日系企業も注目するところであり、四川省、成都市及び重慶市各政府の積極的な誘致による日系企業の参入も期待される。

2.重慶市の経済動向

2021年の重慶市の経済は全体的に安定的な成長を保持している。
2021年の重慶市の域内総生産(GRP)は前年比8.3%増、2020-21年の2ヶ年平均は6.1%増であり、中国全体のそれぞれ8.1%増および5.1%増を上回った。一定規模以上企業の工業付加価値額は前年比10.7%増、2ヶ年平均は8.2%増で、全国平均の9.6%および6.1%を大きく上回った。特に2021年の工業付加価値額増について自動車および二輪車産業が前年比11.3%、電子産業が17.3%と、重慶市の二大重点産業が牽引した。
消費動向を示す社会消費品小売総額は2021年、前年比18.5%増および2ヶ年平均9.6%増で、中国全体の前年比12.5%増および2ヶ年平均3.9%増を大きく上回った。前年比18.5%増は全国主要都市の中では上海、北京に次ぎ第三位の高い値である。特に、Eコマース消費が大幅に増加、またクリーン・スマート関連消費および新エネルギー車販売台数も大きく増加し、2021年の重慶市の消費を牽引した。
2021年の重慶市の貿易総額は前年比22.8%増の8000.6億元、増加率は中国全体の21.4%を1.4ポイント上回った。輸出が前年比23.4%増、輸入が前年比21.7%であった。

3.日系企業の進出状況

重慶市の進出日系企業数は約225社(2020年10月現在、在重慶日本国総領事館調べ)。日系商工会組織としては、重慶日本商工クラブがあり、2021年3月時点で法人会員91社・団体、個人会員13人が加入している。また、在留邦人数は約268人である (2020年10月現在、在重慶日本国総領事館調べ)。
重慶市の日系企業のビジネス展開分野としては、自動車関連、機械・機器、IT、計測機器、環境技術といった製造業のほか、金融、小売・流通業、物流等のサービス産業となっている。

4.日系企業の業績動向および課題

2021年秋にジェトロが現地日系企業に対して実施したアンケート調査(2022年2月公表)によると、2021年の営業利益(見込み)が「黒字」と回答した企業の割合は59.1%で前年の48.3%から大幅に増加したが、一方で「赤字」と回答した企業の割合も27.3%と前年の13.8%から増加した。重慶市の日系企業は、黒字化の企業と赤字化の企業とに二分された形だ。
2021年の営業利益改善の要因として、「現地市場での売上増加」を選択した企業は中国全体で77.9%、重慶市でも81.8%とそれを上回った。そのほか、「稼働率の改善」や「調達コストの削減」を理由として選択した重慶市の企業もそれぞれ1/4以上あり、中国全体で最も比率が高いのが重慶市であった。
重慶市の日系企業が抱えている経営課題として、昨年は「競合相手の台頭(コスト面での競合)」を選択した企業の比率が最も高かったが、今年も同じ項目を選択した企業が72.7%と中国全体の52.9%を大きく上回り全省市で最も高い割合であった。また、「従業員の賃金上昇」を選択した企業の割合は63.6%で昨年の46.4%から大きく上昇、一方で「主要取引先からの値下げ要求」を選択した企業は45.5%で昨年の59.3%から大きく減少した。2021年も昨年に引き続き競合相手とのコスト競争が最も重要な経営課題として挙げられたが、そのコスト圧迫要因については、取引先からの値下げ要求から従業員の賃金上昇へと内容が変化していることが読み取れる。

地方政府との交流の状況

新機遇・重慶-日本経貿合作座談会
・2021年3月9日(成都市)
・中国側参加者:重慶市商務委、渝中区・栄昌区・両江新区等政府/管委
・日本側参加者:在重慶総領事、日中経協、日系企業
・交流内容:重慶市の各区県政府部門と日系企業との投資環境に関する意見交換会

5.建議

(1)公正かつ公平な法律の解釈と運用

各種の法律執行にあたっては、条文解釈や適用範囲、適用対象など関して、恣意性や不公平性および不透明性、さらには地方ごとの差異が無いよう適切な運用を希望する。また、他の大多数の国には存在しない法律やルールの存在ならびに注意点を、同地に進出してきた外資企業に対して説明するのは、投資誘致・投資環境整備の一環として現地政府が提供すべきサービスであり、その徹底を要望する。

(2)日系企業との直接対話の継続的な実施

2021年には新型コロナウイルス感染者の定期的な発生等の要因により重慶市政府と日系企業との直接的な対話が行われなかったが、2020年以前に定期的に開催されてきた直接対話は重慶市で操業する日系企業にとっては業務上の課題等を直接伝えることができる貴重な機会である。2022年以降も重慶市政府関連部門と日系企業との直接対話の機会を継続的に設けていただきたい。

(3)労働力不足の改善

重慶市の日系製造業から、慢性的な労働力不足の状態が続き、安定的な生産に支障を来しているとの声が挙がっている。労働力不足は重慶市で製造業を営む企業にとって事業環境上の大きな課題になっているとともに、新規投資や拡大投資の可能性を阻害する要因になっている。周辺地域の職業訓練学校の卒業生が重慶市に集まるような働きかけや政策措置を取るなどして、十分な労働力が供給されるよう要望する。

(4)行政サービスの質の向上

市政府幹部が、対外開放の推進、事業環境の改善に積極的な姿勢を示す一方で、一部の日系企業からは、助成制度の利用や認証手続、各種行政手続など色々な場面で、プロセスが不透明、当局から十分な説明が得られない、対応が不親切、担当者によって言うことが違うなどといった不満の声が聞かれる。市政府の対外開放の推進、事業環境の改善に向けた努力や意識が、企業の直接窓口となる末端の行政部門の現場にまでしっかりとは行き渡っているとは言えない。当地日系企業に対する行政サービスの質の向上、行政各当局の対応の改善を要望する。

(5)電力供給制限に関する問題への対応

2021年秋に電力供給制限が発生した際、前日深夜に急に翌日の電力供給制限に関する通知が来る、同じエリアに在しておりながら一方は供給制限を受け一方は供給制限を受けない等、不公平と感じてもおかしくない事態があった。企業規模や納税額に応じた対応がなされたと不信を感じているとの声もある。今後重慶市への進出を検討する企業の進出意向を削ぐことのないよう、供給制限の対象条件を明確化させ地域内での公平性を確保するとともに、十分な準備告知期間を設ける等、企業の生産活動に支障が無いような措置を要望する。また2021年には重慶市中心部において数時間に及ぶ大規模停電も発生した。重慶市政府としても、不測の事態に備え非常用の変電設備、送電ルートを確保するなど企業活動に支障がないよう改善いただきたい。

(6)重慶市に投資した企業のさらなる発展に向けた優遇政策の措置・適用

企業誘致の際には各種の優遇政策が用意され、政府も親身な対応を見せるが、投資した後に事業の拡大を図るにあたり利用可能な優遇措置が少ないという声がある。追加投資を行う場合など、投資企業が成長する過程の各段階で利用可能な優遇政策の整備を要望する。

(7)外国人就労許可制度の柔軟な運用と手続の緩和

現行の外国人就労許可制度の運用において、年齢や学歴、就業経験等に関わらず、発行基準の柔軟な適用により円滑に就業許可が与えられるよう、当地の状況や各社の状況に応じた制限の緩和、発行基準の柔軟な適用を要望する。当地に赴任してから就業許可証および居留許可証の取得までの一連の手続の簡素化を要望する。

(8)成都-重慶地区両都市経済圏によってもたらされる効果の提示

成都-重慶地区両都市経済圏について、日系企業からは、当該経済圏が日系企業にどのようなメリットをもたらすのかよくわからないという声が多く聞かれる。企業のビジネス環境がどのように改善し、企業にどのような効果をもたらされるのかを、具体的にわかりやすく提示していただくよう要望する。

(9)西部大開発の優遇政策における不平等な競争環境の是正

中国政府の西部大開発の政策に基づき、「西部地区奨励類産業目録」に記載のある業種は企業所得税が15%の優遇を受けられることになっているが、外資企業への適用は「西部地区奨励類産業目録」ではなく「奨励外商投資産業目録」に基づく。このため、「西部地区奨励類産業目録」に記載があっても「奨励外商投資産業目録」に記載がない業種では、外資企業は優遇税率の恩恵を受けることができない。同じ業種でも「西部地区奨励類産業目録」によって恩恵を受ける内資企業と外資企業の間で、税負担の適用に不平等が生じる制度設計となっており、公正な競争が妨げられる。かかる不平等の是正を要望する。

(10)交通マナーの改善

市内の至る所で路上駐車が多く、住宅地の比較的細い道路では大型車のすれ違いができずに渋滞の原因ともなっている。また、歩道への駐車、バイクの走行、工事による歩道封鎖など、歩行者の安全が確保されていないとう指摘もある。路上駐車や交通マナー違反の取締り強化、渋滞緩和のための迂回道路の新設、適切な総量規制の実施など道路事情の改善を要望する。

(11)防疫対策における外国人への対応

日本から当地に戻り集中隔離を経験した日本人からは、重慶市の隔離施設の生活環境が他の都市と比べ劣っているとの指摘が多く聞かれた。隔離措置に当たっては他の地域とそん色ない条件としていただくよう要望する。防疫対策の運用に当たっては、重慶市が独自に厳格なルールを設けることなく、また外国人に対するサービスに遅れが生じることがないようしっかりとした準備、体制の整備を要望する。

引用元:重慶日本商工クラブ 副会長:森永氏(日本貿易振興機構 成都代表処)